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執筆者の写真petomoni

petomoni(ペトモニ)寄付取材 Vol.7

一般社団法人リアン

「いつでも、何度でもどうぞ」里親にとことん寄り添う保護活動


『一般社団法人リアン』は、福岡県筑後市を拠点とする動物愛護団体である。

猫の適正飼育の啓発や、飼い主のいない猫に対してTNR活動を行っている。TNR活動とは『Trap(捕獲)・Neuter(避妊去勢手術)・Return(元の場所に戻す)』である。


今回取材に応じてくださったのは、団体の立ち上げメンバーであり筑後市議会議員でもある、鶴 佑季子さんと、同団体の代表である川野 和美さんである。


お話は南筑後にある、団体のシェルターにてお聞きした。多くの猫が自由に行き来や昼寝をするスペースで、取材者にも猫がすり寄って甘えてくるような和やかな雰囲気であった。


「シェルターには常時80頭〜100頭の猫。しかし保護相談の電話は鳴りやまない」


天野:保護の依頼はどのような形で来るのでしょうか?


鶴さん(以下、敬称略):「子猫が生まれてしまったので保護してください」または「かわいそうで餌をあげていたら増えて困っている」という連絡が来ることが多いです。


他には、不妊手術をするために保護した子が既に妊娠していて、手術の前に出産してしまう場合もあります。

そのような場合、産まれた子猫はお乳を飲む期間に飼育すると、外を知らない子になってしまいます。なのでそのまま保護し、団体で譲渡できるような形で進めていきます。


天野:なるほど。保護の依頼数も多いとお伺いしましたが?


鶴:ほぼ毎日連絡が来ます。県をまたいで熊本や長崎、佐賀からも「インスタを見ました」等連絡がくることもしょっちゅうです。

私達も無理ができないので、現時点では猫の保護をお断りをしている状況です。


しかし、やっぱりお話を聞いていると「これは保護してあげないとどうしようもない」という状況の子もいます。そういった緊急の時は、我々3役で相談し「行きますか!」と。状況によっては他の役員には事後報告で「すいません、もう向かってます」とか「もう保護しました」という場合もありますね。


天野:保護をする・しないという基準はどのようなものですか?


鶴:ずばり、猫の命に危険があるかどうかです。

まずはお話を聞いて緊急性がないことが判断できれば、こちらはご相談に乗る形でご連絡者さんにどうにかしていただきます。病院に連れていってもらったり、譲渡会に連れてきてもらうなどです。


天野:リアンさんが開催される譲渡会に参加してもらって、譲渡先を一緒に探すんですね。

お話をお伺いしていると、スタッフさんの労力が相当だと感じられます。今は何名ぐらいの方が関わっているのでしょうか?


鶴:グループは26人ですが、実働は10人くらいでしょうか。

ボランティアさんは無償ですし、お仕事をされている方も多いので無理は言えません。来れる時だけ、たとえ1日でも1時間でも、もしくは仕事帰りの数十分でもやって頂ける方はメンバーとして入ってもらっています。

特に朝はやっぱり大変ですね。トイレは満タンですし、お腹が減った猫ちゃんがワチャワチャと「ご飯ちょうだい」って、すごいですから。

一般社団法人リアン代表 川野 和美さん


川野さん(以下、敬称略):それから、個人の自宅での保護も行っています。

事情があってシェルターに入れない子、例えば真菌があったり、怪我をしていて集団生活ができない子、他にも特別に手のかかる子などは、そういった形でも対応しています。鶴さんの家でも過去には預かっていました。自宅保護はできる人がして、治ったらまたシェルターに移すという風にしています。


「シェルター開設初期に味わった辛い経験。だから今も目の前の子を見捨てることができない」


鶴:ボランティアさんも最初は「かわいい」「何かしてあげたい」と熱意を持って活動してくれます。しかし、次第に疲弊して気持ちが落ちてしまい、続かない人もいます。


というのも、やっぱり保護している中には亡くなってしまう猫もいるんですね。一生懸命お世話してきても、そういうことがあると気持ちが落ちる人は落ちてしまうんです。


天野:なるほど。思いを持ってくださっているからこそ、反動が大きいんですね。


鶴:パルボウイルス感染症という病気をご存じですか?シェルター開設後、1年目か2年目くらいの頃にそれが広がってしまい、子猫が次から次に命を落としたことがありました。


(※パルボウイルス感染症:猫汎白血球減少症、猫伝染性腸炎とも呼ばれる。強い感染力があり他の個体へも爆発的に広がる。感染すると死亡率も高い)


鶴:あれは悲惨でした。助けたくて必死で、毎晩交代で病院に通いました。子育ても家のことも後回しにして何十万というお金も飛んで行きました。

努力をしても次々に亡くなってしまい、亡骸を抱っこしながら泣き叫んだことを覚えています。あの時は自分の無力さを感じ、罪悪感しかなかったですね。


団体になりたった3年ですが辛い経験を沢山しました。

活動をやめてしまうと死んでしまう子がたくさんいるということを目の当たりにしました。目の前の子を見捨てることができないので、やめたくてもやめられないのです。


天野:活動には終わりがないんですね。


「いつでも、何度でも。他の団体にはない、リアン独自の『永年預かり制度』とは?」


天野:保護された猫は体調が安定すると譲渡会で里親に出されると思います。保護から譲渡までにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?


鶴:長い子では3年くらい里親さんが見つからない子もいます。人慣れしていても、縁がない時はないですね。

譲渡会でも、出ていく子の頭数は月によってバラバラです。出るときは一気に20頭程出ることもあれば、0頭という時もあります。


天野:なるほど。譲渡会の頻度と、譲渡後の流れについて教えてください。


鶴:譲渡会は月に2回からですが、他のイベントに呼んでいただける場合も含めると、多いときは4〜5回は行っています。他にもインスタでの発信や「ジモティー」などの掲載もしています。


譲渡のご希望がありますと、まず基本的にはご自宅、つまり猫の住む環境を見せていただきます。その後トライアル期間を設け、連絡を取りながら対応していきます。

また、譲渡してからもしばらくやり取りはさせていただき、ワクチン接種や不妊手術の報告をいただくようにしていますね。


天野:一旦譲渡したものの、帰ってくる子はいるのでしょうか?


鶴:基本的にほぼ帰って来ることはないですね。先住猫がいても同様です。もちろん、よっぽど飼い主さんの精神的ご負担が大きい場合などは、すぐに帰してくださいとお伝えします。人と猫、お互いの一生に関わるので妥協して簡単に軽々しく決めて欲しくない。また落ち着いて、いいなって思ったときに再チャレンジしていただきたいです。


高野:優しい考え方ですね。


鶴:そうですね、我々の団体は「いつでも何度でもどうぞ」という考えです。他の団体では、受け入れる保護者の条件を厳しく設けているところも多いです。例えば「未婚はダメ」とか「65歳以上はダメ」などです。


しかし我々は、せっかく保護猫を飼いたいと思ってくださる方には、出来る限りご協力いただきたいとの思いを持っています。

例えばご年配の方で、他の団体には断られたけどやっぱり猫が飼いたいという方もいらっしゃる。そういった方が安心して猫を迎えられるよう『永年預かり制度』というのを設けています。猫をお迎えしたい方に寄り添うべく、他ではなかなかご縁がないという方でも、まだまだ猫のお世話ができる元気な方にはいろいろご相談させていただいているんです。


天野:『永年預かり制度』とは、どのようなものですか?


鶴:猫の飼育に問題のない、元気な高齢者は最近多くいらっしゃいます。そういった方に、たとえ1匹でも預かっていただけることで、私達も救える命が増えるんです。

譲渡会ではなかなか選ばれないようなハンデがある子やエイズのキャリアがある子など、おとなし目のゆっくりした性格の子をお預けしています。成猫や疾患を持っている子は里親が決まりづらい傾向があるんですが、そういった形でお互いがWin-Winの関係になれるよう、考えています。預かりさんの状況が変われば(体調不良や入院)、団体に再び返して頂けるという制度です。預けている間の食費や医療費のご負担はいただきますが、例えば病院などどうしてもその方での対応が難しい場合は私達もサポートするなどして対応します。


天野:高齢の方にとっては、子猫の世話は大変なこともあります。逆にのんびりしてる子の方が合っているのかもしれません。素敵なお話です。


「空き家で汚れた水を飲んで生きていた13頭の猫。そこからすべてが始まった」


天野:改めて、シェルターを立ち上げられたきっかけについて教えてください。


鶴:団体立ち上げ当時、「近くの空き家に13頭ぐらい野良猫がいて、子猫を産んで増えている」と相談がありました。見に行くと掃除もされておらず、水も替えられていない大変な状況でして。


一気に13頭はさすがに厳しい。不妊手術の費用もどうしたものかと考えていたところ、知り合いの猫カフェさんから、福岡県の『地域猫活動補助金』についてお聞きしました。

しかし、申請を試みたものの、地域の理解を得ることがとても大変で。保護猫活動に理解のない悲しい現実に直面しました。地域の同意が得られず、保護したら戻すなと言われました。


このまま手術をしたとしても13頭が毒殺されたり虐待されたりする可能性がある。何か方法はないかと話し合った結果、空いたプレハブがあったので、とりあえずそこを片付け、ケージ買って猫を入れてみました。しかし当然ですが、入れてしまえば今度はお世話しないといけない。そこからお世話の日々が始まりましたね。「何これ?!猫のお尻から紐が出てきてる!」などと慌てるような、寄生虫の知識もない状態からです。本当に手探りでここまで来ました。


「市議会議員の立場から見た、保護猫活動の課題は?」

筑後市議会議員 鶴 佑季子さん


天野:鶴さんは市議会の議員をされています。保護猫や保護犬の活動について、行政から見るとどのような課題がありますか?


鶴:まず、行政はボランティア団体のサポートをすべきだと思います。残念ながら行政は、そもそも保護猫・保護犬の問題についてまだ課題として認識(実感)してないところが多いです。

なので、ボランティア団体さんは、行政に頼っても解決できないと思ってらっしゃる。苦労して地域の問題に対応してくださっているのだから、行政はその方々にスポットライトを当て、サポートを充実させるべきだと思います。


今後さらに高齢化が進み、財政が先細りしていきます。優先順位を考えると、動物にかけるお金はどんどん削られていく。政治家を選ぶのであれば、命を大切にする人を選んでいかないと、この状況は変わっていかないだろうと思います。


また、国を挙げて教育を見直してもらいたいです。私たち世代は「野良猫は触るな、エサをやるな」と言われて育ちました。社会教育として、人や動物に対する愛を勉強できるような教育ができていけば、仕組みが変わるでしょう。


公園ではよく「野良猫にエサを与えないでください」という看板を見かけると思います。禁止されているからこそ隠れて猫たちにエサをばら撒いては走って逃げる人がいて、トラブルになってしまっています。


その点、大阪府堺市は革新的な取り組みをしています。「エサをやるなら不妊手術をしましょう」「片付けて、衛生的に綺麗に保ちましょう」という看板を設置しているんですね。

つまり、単に「エサを与えないでください」ではなく「適正な与え方をしてください」ということ。具体的には「エサやり場のセットやトイレの片付けもしましょう」ということです。全国的にそれが普及し、当たり前になればいいですね。


高野:そもそも、エサをあげようという方は、猫をかわいいと思う優しい人ですものね。


鶴:国は法を変え、県市町は医療現場の獣医師さんや常に最前線にいるボランティアさんを支援する。これらの人たちで輪ができるといいと思います。私達市議(政治家)をうまく使っていただきたいです。


天野:それが実現すれば、例えば定期的に市役所のスペースで譲渡会ができたりするかもしれませんね。ボランティアの方が活動することで逆に元気になっていくような、そんな環境が作れたらいいです。


鶴:そうですね。先ほども申しましたが、思いを持ったボランティアさんがなかなか続けられないことについて、私たちがうまくフォローが出来ていないのではないかという負い目や申し訳ない気持ちがあります。


今、18歳以下の子たちの自殺が増えて問題になっています。世の中で自殺するのは人間だけです。生きたい犬猫たちは自分たち人間の都合で殺処分され、自分たち人間は自分の都合で自殺してしまう。


私達人間は、この子たちを殺している側として、生きなければいけないと思います。

なので、辛い思いをされている方に対しては「自分が生きることに疲れたときは、この猫たちのために自分の命を使いませんか?」とボランティアの提案をしたいと思っています。生きがいを保護猫活動にしませんか?と。


天野:素晴らしいです。最後に、リアンさんが今後目指していきたいことについて教えてください。


鶴:まず1つ目は、いのちの授業をしていきたいです。次世代の人たちが私達みたいな教育を受けてたら同じことを繰り返していく。自分たちの力は小さなものですが、チリツモ(塵も積もれば山となる)です。動物愛護教育を通じて意識改革をしていきたいです。


今度、他県の自治体ですが全職員と全議員さんたちにいのちの授業をさせていただきます。まずは行政の上の人たちに野良猫や保護猫活動の現状を知っていただき、意識を変えていただき、一緒に正しい知識と関わり方を広げていただけるようになればと思っています。

正しく関わることができれば、地域の意識が変わっていきます。

例えば広報にも、文章一言でもいいから何か載せてもらえるとありがたいですよね。小さなことから積み上げていくことが大事で行政も人、関係性を育てていくことも大切です。


また、2つ目は保護団体同士の連携です。リアンのような保護団体は増えてきていますが、どの団体も忙しすぎて連携が取れていないのが現状です。同じ思いを持った団体同士、協力しあえたらさらにいいと思うので、全国的にそういった取り組みができたらいいと思っています。政治的にも動物愛護ボランティアが無視できない存在にならなければと思っています。


4年目となる『一般社団法人リアン』さんの保護猫活動。

それは、空き家にいた13頭の猫との出会いが始まりであった。


病気やけがをした猫の世話をすることは、常に「いのち」と向き合い続けることだ。そのうえ毎日のように入る保護の相談、譲渡会の運営、ボランティアへの配慮、そして市議としての考察や啓発活動。忙しさに追われる日々だが、リアンさんのスタッフは「大変だけど楽しいです」とお話しされる。明るく元気な様子が印象的であった。


対談後、「一般社団法人リアン」さんには『petomoni(ペトモニ)』から寄付金をお渡しした。

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