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執筆者の写真petomoni

petomoni(ペトモニ)寄付取材 Vol.6

更新日:2023年3月15日

認定NPO法人日本レスキュー協会

「もっと多くの命を救いたい」

阪神淡路大震災の教訓が生んだ、日本の災害救助犬たち


認定NPO法人日本レスキュー協会は、災害によって瓦礫や土砂で生き埋めになった行方不明者を発見する災害救助犬を育成するため、1995(平成7)年9月に設立された。


災害救助犬の派遣は、これまでに国内外で35か所にのぼる。2021(令和3)年に発生した熱海土石流災害での救助活動の様子は、メディアにも数多く取り上げられ記憶に新しい。

こうした活動に興味を持ったpetomoniディレクターの天野オンラインで、スタッフの松本は、日本レスキュー協会がある兵庫県伊丹市に向かい、動物福祉事業を担当する辻本郁美さん、災害救助犬事業責任者の髙木美佑希さん、セラピードッグ事業責任者の赤木亜規子さんから直接、話しを聞いた。


阪神淡路大震災の教訓

松本:日本レスキュー協会さんはどのような経緯で設立されたのでしょうか。


辻本さん(以下、敬称略):1995(平成7)年の阪神淡路大震災がきっかけです。震災では建物の下敷きになって亡くなった方が多数いました。当時、海外から複数の災害救助犬チームが駆けつけていましたが、日本は救助犬の認知度が低く、活動実績もなかったため、行政の受け入れ体制を整えるのに時間がかかってしまいました。そのため、実際の救助活動を始めるのが遅くなってしまったんです。


犬の嗅覚はとても優れていますが、初動段階で現場にいち早く派遣できなければ、十分に力を発揮することはできません。こうした教訓を踏まえ、迅速な救助活動でより多くの命を救うために、日本レスキュー協会は同年の9月に設立されました。


協会では災害救助犬だけでなく、セラピードッグの育成や派遣、動物福祉事業の3つの柱を中心に、「犬とともに社会に貢献する」という理念を実現するため、さまざまな活動をおこなっています。

現地にて取材をする松本とオンラインにて参加の天野


災害救助犬の活動とは


松本:災害救助犬とは、どのような訓練を受けた犬のことでしょうか。


髙木さん(以下、敬称略):災害により崩れた瓦礫や土砂に埋もれた人を臭いで探し、吠えて知らせる特殊な訓練を受けた犬のことを、災害救助犬と呼びます。救助犬活動は協会が発足して以来27年間、要となっている活動です。


ただ、災害救助犬の歴史は日本ではまだ浅く、公的救助機関と連携する体制の構築が不十分です。こうした問題を解決して、私たちは災害救助犬がチームの一員として有効に運用される社会を目指しています。


松本:有効に運用される社会とは、具体的にはどのようなものでしょうか。


髙木:災害救助犬の歴史は、17世紀〜18世紀初頭にスイスのアルプス峠にある修道院で飼われていたバリーという犬が、行方不明になった登山者の救助活動に参加したことが始まりとされています。こうしたことからスイスでは、古くから救助犬が行方不明者捜索の有効手段の一つとして高く評価され、訓練のために軍用地を提供するなど、救助犬の育成を官民が一体となって行ってきた歴史があります。


またスイスには、災害発生時にさまざまな専門機関がチームで協力し合って対応する、レスキューチェーンという考え方があります。この中には民間の救助犬も含まれていて、多くのチームが被災地に救助犬を連れていきます。ところが、日本にはまだこのような考え方が根付いていません。


松本:日本では救助犬が救助機関として認識されていないということですね。確かに私たちがよく目にする介助犬や警察犬とは違い、災害救助犬は被災地からの報道などで知ってはいても、実際の活動はあまり見る機会がありません。


髙木:そうですよね。救助犬を連れて被災地に行っても、現場で救助活動にあたる消防や自衛隊などの公的救助機関に断られてしまい、現場に入れない例も過去にありました。入れたとしても、救助に参加させてもらえないなど、上手く連携できない場合もあります。


こうしたことから、まずは各自治体と災害協定を締結するなどして、スムーズな現地入りができる基盤を整えています。また、救助機関と合同訓練をして、救助犬に対する理解を深めてもらう活動をおこなっています。救助犬の利点を知ってもらうだけでなく、夏の暑さに弱いなどの欠点を知ってもらうことも重要です。


松本:地道な活動かと思いますが、改善の兆しはありますか。


髙木:少しずつですが風通しが良くなっていると思います。昨年の熱海土石流災害に出動した際は、現場の理解もあって、全国各地から複数の救助犬チームが集結して成果をあげることができました。


一方で各チームがバラバラに報告を行うと、災害対策本部が混乱してしまうという課題も見えました。そこで私たちの協会が対策本部の窓口となって、捜索地域の割り当てなどを各チームに連絡していきました。公的救助機関だけでなく、私たち民間団体が連携し協働することで、より効率よく活動できるとわかりました。こうした学びは、現地で体験して初めて得られるものなので、積極的に他団体へ情報共有していきたいと考えています。

認定NPO法人日本レスキュー協会の髙木さん


松本:消防や自衛隊では救助犬を育成していないのですか。


髙木:自衛隊には数頭の救助犬がいると聞いていますが、消防にはいません。現在、日本で活動している救助犬の8割は、民間団体が育成した救助犬です。海外においても、軍隊が育成を行っている場合もありますが、民間育成の救助犬の評価がとても高く、スイスのレスキューチェーンは、こうした民間救助犬の活動を前提とした仕組みづくりがされています。


松本:補助犬などは厚生労働省が指定する法人などで認定試験を受ける仕組みがありますが、救助犬にはこうした認定試験はありますか。

髙木:定められた認定試験はなく、各民間団体が独自に試験を設けて認定しているのが現状です。そのため同じ救助犬でも能力に差がある場合があります。こうした認定の仕組みが標準化されていないのも課題のひとつです。


また、一緒に救助活動にあたるハンドラー(訓練士)についても、学べる場所はあまり多くありません。私たちはこうした人材の育成にも力を入れています。一般の方向けの救助犬サポーター養成講座の開講や、アメリカから講師を呼んでセミナーを開いています。協会の施設内には訓練用の瓦礫施設があって、所属する救助犬はここで日々訓練しています。こうした施設を、講座を受講する方や連携機関に使っていただき、より実践に即した学びの場所を提供しています。


セラピードッグ事業の活動について


松本:こうした災害救助犬活動は、阪神淡路大震災をきっかけに始まったとのことですが、先ほど3本柱のお話にあったセラピードッグ事業は、どういった経緯で始まったのでしょうか。


赤木さん(以下、敬称略) :実はこれも震災がきっかけです。1995年12月に、震災で家族を亡くした子どもたちのためのクリスマス会が開かれました。そこに災害救助犬も訪問したんです。参加した子どもたちは当初、暗い表情でふさぎ込みがちだったそうですが、元気に走り回る犬の姿を見て次第に打ち解け、一緒になって走り回っていたといいます。人間には真似のできない、犬の癒しの力を目の当たりにした当時の理事長が感銘を受けたことから、セラピードッグ活動が始まりました。


松本:なるほど、こちらも震災に密接に関係しているんですね。具体的にセラピードッグとは、どんな犬のことをいうのでしょうか。


赤木:セラピードッグ とは、触れ合いや交流を通じて心と体のケアを補助する役割を担うため、特別な訓練を受けた犬のことです。人間同士では言葉が邪魔をして壁になる場合でも、犬はただそこにいるだけで癒しを与えてくれる、特殊な能力があります。緊張感の緩和、不安やストレスの軽減、闘病意欲の向上など、さまざまな効果があると言われています。協会には現在、8頭のセラピードッグが所属しています。


松本:普段はどのような活動をされているのでしょうか。


赤木:普段は高齢者や障がい者、子どもたちのいる福祉施設を回って活動しています。この他、災害の復興期には被災地の仮設住宅を訪れて復興の手助けをおこないます。今年5月には新型コロナの影響で中止していた、岩手県釜石市の復興住宅を2年半ぶりに訪問しましたし、熊本県盛城町の保育園を訪問して絵本の読み聞かせもしました。さまざまな活動を通してセラピードッグと触れ合う機会を提供しています。


私たちが一番大きな事業と考えているのが、子ども病院への訪問です。多くの要望を病院からいただいていますが、コロナの影響もあり、感染症対策や衛生面、噛まないかなど、まだまだ越えなければならないハードルが残っています。


そんな中、大阪府堺市にある大阪母子医療センターから、「患者さんの闘病意欲を高める取り組みとして導入したい」と依頼がありました。そこで、大阪府獣医師会の獣医師にご協力いただき、実際に子どもたちに会う前に、感染症についての講義と、全職員の方に実際のセラピードッグと触れ合ってもらい理解を深めました。そして依頼を受けてから半年後、ようやく子どもたちに会う願いが叶いました。

認定NPO法人日本レスキュー協会の赤木さん


松本:日本レスキュー協会さんの他の活動に、セラピードッグ事業はどのような影響を与えていますか。


赤木:セラピードッグは災害救助犬の活動を通して、その重要性に気付いた経緯があります。救助犬は災害そのものから人を救助しますが、セラピードッグは災害を経験した被災者の心をサポートします。人のために働く犬がいる一方で、人によって捨てられる犬もいます。こうした犬たちの生きる権利を守るのも、私たち人間の使命なのではないかと考え、動物福祉の活動も始まりました。


最近では被災ペットに対する物資の支援も行っていますので、3つの事業はひとつの線として繋がっていると考えています。


松本:いまのお話しでとても興味が沸いたのですが、一般の方がセラピードッグと触れ合える機会はあるんでしょうか。


赤木:協会の施設内には、セラピードッグたちを管理している犬舎があります。その隣にふれあいスペースを設けて、セラピードッグハウスとして公開しています。普段は私たちが施設を訪問していますが、ここでは来てくれた人が誰でもセラピードッグと触れ合うことができます。


松本:そこで犬たちと触れ合って、どんな効果があるか体験できるんですね。


動物福祉事業の活動について


松本:最後の柱、動物福祉事業については、どのような活動をされているのでしょうか。


辻本:虐待や飼育放棄、捨てられるなどし、保健所などの行政施設に収容され、殺処分されてしまう犬たちを、一頭でも多く救う取り組みをおこなっています。と同時に、殺処分される犬を生まない社会環境を実現するために、動物福祉の考え方を飼い主さんに呼びかけなどの啓蒙活動をしています。


具体的には殺処分対象となってしまう犬たちを、主に行政機関から引き取り、必要な医療やケアを施して、人と幸せに暮らすためのトレーニング、もしくはリハビリを行って、里親になってくれるご家族を探します。また、犬の育成にも力を入れていて、保護犬の中から適正を見極めて、セラピードッグや災害救助犬に育成する活動も同時に行っています。


松本:虐待を受けていた犬などは、トレーニングやリハビリが難しい場合もあると思いますが、どのような工夫をされていますか。


辻本:人を噛んでしまうなど、苦労する犬もいます。犬にしてみれば嫌なことをされているから当たり前かもしれませんが、人と一緒に暮らすためには、嫌でもある程度我慢してもらって、トレーニングしなければなりません。しかし私たちが噛まれてしまうと、「噛んだら上手くいく」といった学習に繋がりかねません。そこで、最大限の予防と工夫をしながら根気よくトレーニングしていきます。場合によっては、里親になる家族に協会に来ていただいて、私たちと一緒にトレーニングをおこなうなどの工夫をしています。


天野:保護犬からセラピードッグや災害救助犬に育成される適正犬は、どれくらいの割合でいるものでしょうか。


辻本:全体的な割合はあまり高くありません。訓練する上では子犬の方が適性が高く、育成も容易です。ただ保護犬は高齢の場合が多いんです。訓練も3〜4年は必要なので、その後の余生を含めて考えると、里親を探した方が犬にとっては幸せな場合が多くなります。

認定NPO法人日本レスキュー協会の辻本さん


ペットの災害対策について

松本:動物福祉についてもうひとつ。自然災害が毎年のように起こる中、ペットの同行避難についての関心が高まっています。


辻本:被災ペットへの対応も大きな活動のひとつです。ご家族に対してヒアリングを実施したり、ペット用品(フードやペットシート)を配ったりといった活動を積極的に行っています。災害への危機意識が高い飼い主さんは多く、被災地で物資を支援をするだけではなく、平時の災害準備を啓発するため「備えよう!ペットの災害対策ガイド」という冊子を作って、イラストなどを使って分かり易く解説しています。


松本:災害時は人の支援物資が中心で、ペットへの支援物資はなかなか来なかったり、行政の準備が不足していたりといった問題も指摘されています。


辻本:勿論、人命が優先ですし、ペットの事は後回しになりがちです。そこで飼い主さんの事前準備がとても重要になります。環境省は災害時のペット同行避難を推奨していますが、実際はペットが一緒に入れる避難所は少なく、「ペットは置いてきてください」と言われるケースが少なくないと聞きます。避難所と行政の連携に大きな課題が残ります。避難所に入れないと、最悪の場合「避難しない」という人が出てきます。実際、車の中や屋外で寝泊りする人がいて、命にかかわる場合もあると思います。


仮に避難所が受け入れても、ペットが周りに迷惑をかけてしまうと、その後の受け入れに影響を与えてしまう可能性もあります。飼い主さんには、普段から訓練や準備をおこなっておく必要があります。


天野:私の家にも犬が2頭、猫が2頭、あと爬虫類もいるので切実な問題です。自治体は同行避難を推奨してはいるのですが、指定された避難所にペットが実際に入れるかどうかは情報がありません。


辻本:避難所を事前に調べておくのは大切なことです。台風や大雨など、短時間で収束する災害のための預け先を探しておくことも重要です。親戚やご友人、ペットホテルなど選択肢はいろいろあります。


災害対策パンフレットご希望の方は、日本レスキュー協会様へお問合せください。


認定NPO法人日本レスキュー協会:http://www.japan-rescue.com/

認定NPO法人日本レスキュー協会のパンフレット


佐賀県での活動。モデルケースを作ってノウハウを発信


松本:佐賀県に新しい拠点を建設したとのことですが。


辻本:今年の2月に、協会佐賀県支部の新しい拠点「MORE WAN(モアワン)」が、佐賀県大町町に完成しました。災害救助犬やセラピードッグの育成を行う他、災害時にペット同伴で避難できる施設としても活用していきます。室内で飼い主さんと過ごしてもらう避難施設として、マニュアルの整備などを進めています。収容数には限界がありますが、ここをペット同伴可能な避難所のモデルケースとして活用する考えです。


松本:新しい拠点が災害救助犬の活動に与える影響はありますか。


髙木:ここ(兵庫県)と比較にならないくらい大きな瓦礫施設ができる予定です。地元の消防がそこで訓練をしてもらうことで交流を深め、より緊密な連携が取れるようにしていきたいです。また併設するドッグランの利用者が、災害救助犬を知る機会に繋がればと思います。


日本レスキュー協会の今後の展望


松本:各事業の今後の展望はいかがでしょうか。


髙木:災害救助犬事業は、先ほどお話しした熱海での経験などを元に、行政や他の民間団体のモデルケースとして情報共有し、災害救助犬の活動を日本全国に広めていきたいと考えています。


赤木:セラピードッグ事業では、必要としている人にセラピードッグがスムーズに会える社会を目指して、ひとつずつ課題を解決していきたいと思います。


辻本:動物福祉事業では、保護活動だけでなく飼い主さんが責任を持って終生飼育する呼びかけを、引き続き積極的におこなっていきます。また災害時には、飼い主さんとペットが一緒に避難できる環境を実現していきたいです。


松本・天野:興味深いお話し、とてもためになりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

左から松本、髙木さん、辻本さん、赤木さん


対談後、『petomoni(ペトモニ)』から寄付金をお渡しした。



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